芸術と伝えるということ

1年以上前のことになりますが、ある方のブログを読んで感銘を受けました

そして20代のころに読んだ本の一節を思い出しました

フランシス・A・シェーファー「理性からの逃走」(いのちのことば社)から

その一部を紹介します

 

ピカソは、抽象により普遍を創造しようとした。彼の抽象画においては、

ブロンドとブルネット、男と女、さらには、人間といすですら、はっきりと

識別することが不可能なほどである。その抽象は、彼に全く独自な宇宙を

カンバス上に展開させるところまでいった。(中略)しかし、個体をでなく

普遍を描こうとしたため、彼も現代人のジレンマの一つであるコミュニケ

ーションの喪失という現実に、直面しなければならなかった。

絵の前に立った人間は、絵から何も得ることができなかった。(中略)しかし

ながら、ピカソが恋をしたときに何が起こったかをみるのは、まことに

暗示的である。彼はカンバスに「私はエバを愛している」と書きつけ始めた

のだ。突然、それを見る人とピカソの間には、コミュニケーションの道が

開けたのである。」

 

ピカソは抽象画家ではないという反論があるとは思います

しかし、シェーファーの見解は非常に興味深いです

「私はエバを愛している」と書きつけられた絵は分析的キュビズムの時代のもので

「裸婦”エヴァが好きだ”」と呼ばれている絵です

(興味のある方は「ピカソ 裸婦 エヴァが好きだ」で検索してみてください)

バラバラになった要素として存在する三次元の構造体は、

とても裸婦には見えません

そして絵の下部に割と小さく「J’aime Eva」と書かれています

ピカソが文字を書きつけた絵は他にもあって

「Ma Jolie(私のかわいい人)」が有名です

モデルはいずれもマルセル・アンベール(エヴァ・グエル)でした

ピカソは2回結婚し、何人かの愛人がいましたが

エヴァは2人目の愛人で結核のため若くして亡くなっています